最終更新日 2021年7月26日 by タイランドピックス編集局
タイバーツに関心を寄せる方には、タイ王国でのビジネス、駐在・移住・旅行、そして外国為替投資の投資先などを検討しておられる方も多くいらっしゃることでしょう。
今回は世界で10番目に交換されており、南アジアで最強通貨であるタイバーツの強さについて解説いたします。
タイバーツ高が続く理由
1. 金融政策の引き締め
タイ中央銀行(BOT)は景気・物価浮揚よりも、家計債務のコントロールを中心とした金融システムの安定性に配慮した金融政策を続けています。2018 年12月には、先行きの金利上昇リスクを軽視した不動産購入に警鐘を鳴らすため、インフレ率が物価目標 の下限を下回る状況下にも関わらず0.25%ポイントの利上げを行い、翌年2019年には、住宅ロ ーン規制の厳格化や自動車ローンの貸出審査厳格化に向けた商業銀行への指導強化など一段の引き締めを実施しています。政策金利の引き下げは一貫して諸外国対比利下げ幅は相対的に小さく、バーツ高を反転させるには至っていません。
2.低インフレ
近年のタイの消費者物価は前年比+1%程度とアジア新興国の中で最も低い伸び率が続いており、購買力平価(PPP)の観点からバーツ高圧力をもたらしています。本来、インフレとバーツ高は相互に影響しあう関係にありますが、これら以外の低インフレの要因としては、 不当な値上げからの消費者保護を目的とした「価格統制・監視規制制度(以下、価格監視規制)」の 厳格化などがあります。
3. 継続的な経常収支黒字
1997年以降、経常収支黒字が続いておりタイの経常収支黒字の対名目GDP比は約6%とアセアン新興国の中で最も大きいです。2015年以降、貿易収支とともに経常収支黒字の主因となっているのは観光サービス収支です。もっとも、新型コロナの世界的な感染拡大により、タイ経済の柱である観光業に深刻なダメージがありますが、ワクチン開発で貿易や観光への依存度が高いタイ経済の見通しが改善するとの見方が強いです。
4. 「安全通貨」としての市場評価
財政が健全であることや潤沢な外貨準備高などから、タイバーツを日本円同様の”安全通貨”とみなす海外からの資本流入の増加につながっていることも挙げられます。タイの一般政府の財政赤字の対名目GDP比は1%以内とアセアン新興国の中で最も小さく、債務残高の対GDP比も約 40%と同程度の所得水準の国々と比べると小さいです。また、外貨準備については、対外債務や輸入額に対する倍率もアジア新興国の中では中国に次いで高く潤沢なのです。
今後の為替相場・金利の予想
2021年も米ドルに対してバーツ高基調が続くと予想できます。引き続きタイの貿易黒字が続くとみられることや、国内の国債や株式市場に外国資本が流入しやすい構造にあることが大きな理由です。
新型コロナウイルスの世界的パンデミックにより、2020年はタイの輸出額が減少した一方で、国内の生産が滞ったことで機械設備や原材料の輸入も減少し、結果的に貿易黒字が増えたと指摘されています。この貿易黒字の増加により、貿易相手国から受け取る外貨が増え、それを自国通貨に交換するために外貨を売って自国通貨を買うことになるため、自国通貨であるタイバーツの上昇圧力が高まります。また、世界的な低金利政策によって、タイの国債や株式市場に外国資本が流入しやすくなっていることなどもバーツ高を促進するでしょう。
タイ経済は徐々に回復傾向にあるものの、2021年以降の見通しはワクチンの有効性や普及の遅れ、外国人観光客の受け入れが進まないことなど不確実性が高く、低金利政策を継続する必要があるとの見解を示し、政策金利の0.50%に据え置く決定を発表しました。(2021年3月)
金融市場では、常にバーツ高抑制に向けたタイ中銀の介入について様々な憶測が飛び交いますが、「口先介入」の域を出ない状況が続いています。
タイランドピックス
戦略コンサルティングチーム